大手ヘッジファンド運用会社Bridgewater Associatesの創業者であり、ベストセラーとなった”Principles”の著者としても知られるRay Dalioは、長い歴史を俯瞰的に分析するアプローチで有名である。
経済的格差の是正にあたり最も影響力があるのは、税制と所得の再分配を財政政策であることは論をまたないが、Ray Dalioは、以下のような観測を示している。
What’s happening is classic and cyclical—i.e., we are seeing the left-right pendulum that has big swings back and forth between 1) more government, more redistributions of wealth and income, and less fiscal and monetary discipline, and 2) less government and fewer redistributions of wealth and income swing sharply to policies of type 1) (left) from policies of type 2) (right) for logical reasons that have timelessly and universally caused these swings.
The Biden Tax and Spend Plan & The Big Cycle Swing, Ray Dalio
起こっているのは古典的かつ周期的なことです。すなわち、1)政府の拡大、富と所得の再分配の拡大、財政・金融規律の低下と、2)政府の縮小、富と所得の再分配の縮小、の間を大きく行き来する左派・右派の振り子が、時を超えて普遍的にこうした振動を引き起こしてきた論理的な理由から、タイプ2)(右)の政策から、タイプ1)(左)の政策へと鋭く振れているのです。
The Biden Tax and Spend Plan & The Big Cycle Swing, Ray Dalio
ここでは、政府が関与することが必須である以上「財政・金融規律、あるいは効率性」と「格差の少ない平等な社会」は長期的には両立せず、どちらかの弊害が深刻化するにつれて、振り子の向きがかわるという世界観が示されている。二つの目的を両立させることが理想だけれど、現実にはどちらにより重点を置くかということを戦略的に選ばなければいけないということだ。
こうした大きな流れを示す端的な例として挙げられているのは、所得上位0.01%の国民にかかる有効税率の推移を示す以下のグラフである。1930年代から70年代に至るまで大きな上昇トレンドにあった有効税率は、大きな政府の非効率性に対する70年代の批判を転機として、今日に至るまで約50年にわたる現象傾向にあったことがみてとれる。
Bidenが発表した財政政策は、過去50年のこのトレンドを大きく反転させることを意図したものであり、Ray Dalioが、 Biden = Roosevelt (The Analogue)で述べているように1935年~1945年にかけてのルーズベルトの政策意図に共通するものが多い。
Bidenの政策が格差拡大の大きなトレンドに対する一時的な修正の試みに終わるのか、トレンドの本格的な転換点になるのか、現段階で見極めるのは容易ではない。しかしながら、現在のアメリカにおける経済的格差は日本などの比ではなく、社会的にも維持が不可能な水準にあるように感じられる。これ以上の格差の拡大は、革命や資本主義以外の体制へのシフトなど、物理学で言うところの相転移的な変化につながるリスクを危険な水準まで高めそうだ。だとすれば振り子の向きが変わる地合いは整ってきているのかもしれない。
50年にもわたるトレンドが反転するとき、社会・経済に直接・間接に大きな影響を及ぼすことになるだろう。大トレンドがかわるということは、これまでの成功体験が約にたたない、あるいはこれまでと同じことをし続けることのリスクが高い、ということだ。成功するには「良い時期に、良い場所にいること。」が大事だから、「今という時期にどこにいるべきか。」ということを真剣に考えるべきなんだろう。
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